子どもの大学学費や通学費などの負担については、離婚の際の争点になることがよくあります。今回は、非監護親が養育費として負担すべき大学進学・通学費を算定した大阪高等裁判所平成27年4月22日決定をご紹介します。
1 本件事案の概要は次のとおりです。
家族構成:元夫(年収約334万円)、元妻(年収約192万円)、長女(私立大学1回生)、次女(盲学校)
平成7年 結婚
平成7年 長女誕生
平成9年 次女誕生
平成24年 二児の親権者を母(元妻)と定めて協議離婚
平成26年 長女が私立高等学校卒業、4月に私立大学進学
(長女の私立高等学校の学費は主に奨学金で賄われた)
平成26年 元妻が、元夫に対して、子らの養育費として一人につき月額5万円及び長女の大学学費・通学費相当額も養育費として元夫へ支払いを求めて裁判所へ申立て
2 原審(和歌山家庭裁判所平成27年1月23日審判)判断の概要
元夫及び元妻の年間収入をもとに、標準的算定方式に基づいて作成された養育費算定表に基づき、下記のとおり計算する。
元夫の基礎収入は約127万円
元妻の基礎収入は約75万円
子らの生活費:年間81万6000円(二人分)とし、これを元夫及び元妻の基礎収入で案分して元夫の負担すべき金額を二人で年間約51万3000円、一人につき月額2万1000円と算定する。
長女の私立大学の学費・通学費:元夫は学費負担はできないと主張するが、大学進学自体は認めており、学費の負担について私立大学の学費負担ができないことを主張しているにとどまり、元妻が算定した元夫が負担すべき長女の大学の学費等金61万円に照らすと、国立大学の学費と比較しても大きな差はない。
長女の学費・通学費合計年間98万円を元夫及び元妻の基礎収入で案分すると、月額5万1000円となり、これを上記月額2万1000円に足した合計7万2000円が元夫の負担すべき長女の養育費である。
3 裁判所の判断(要約)
元夫が負担すべき養育費の額は、長女が私立高等学校に進学する際に元夫も長女が国立大学に進学することを視野に入れていたことが認められるので、国立大学の学費標準額及び通学費用分については元夫も応分の費用を負担するものとして養育費額を算定するのが相当である。
(計算方法)
国立大学の授業料:年額53万5800円(国立大学等の授業料その他の費用に関する省令)
長女の通学費用:年額13万円
上記合計66万5800円を基礎として、元夫の養育費分担額を決定する。
養育費の標準的算定表では、基礎収入の算定において公立高校を前提とする標準的学習費用として年33万3844円を予め考慮していることから、これを超える長女の学費は33万1956円(66万5800円―33万3844円)となる。
当事者双方の収入等からすると、長女自身においても奨学金を受けあるいはアルバイトをするなどして学費等の一部を負担せざるを得なかったであろうことが推認されることから、上記超過額のうち、元夫が負担するのは、その三分の1とするのが相当である。よって、元夫が負担すべき長女の学費等は年間11万652円(33万1956円×1/3)となり、1か月あたり9000円(1000円未満切り捨て)となる。
以上より、元夫は、長女の養育費といて月額3万円(2万1000円+9000円)を、二女の養育費として月額2万1000円をそれぞれ負担すべきである。
養育費を算出するために全国の家庭裁判所で幅広く利用されている「算定表」は、公立学校に通う子に関する標準的な学校教育費用相当額が考慮されていますが、この算定表に収まらない特別事情、例えば、本件のような私立大学の学費・通学費などの費用の分担、高額な医療費の分担等については考慮されていません。
そして、私立大学や私立高校・私立専門学校等の教育費は、公立学校に比較すると高額になり、これらをすべて養育費として当然に算定に組み入れることができるわけではありません。
本決定は、義務者が国立大学に進学することまでは視野に入れていたことを前提に、国立大学の費用・通学費用については義務者に負担させることが相当であるとし、養育費の算定には、国立大学の標準額から算定表に含まれている公立高校の標準的学習費用を差し引いた金額について、当事者双方の収入や、長女自身のアルバイト収入なども加味して、3分の1を負担すべきと認定しました。