1 事例
本件判例の事例は次のようなものでした(一部簡略化しています。)
夫と妻は、平成17年に結婚し、二人の子ども(審判当時9歳と8歳)をもうけましたが、その後、夫の浪費癖などを理由に、妻が実家に帰るという形で別居生活が始まりました。
別居中の子どもたちの監護の状態は次の通りです。
平日は、妻が17時に仕事を終えた後に夫宅に行き、子どもたちに夕食を食べさせるなどした後午後10時頃に実家に帰り、その後(午後11時から12時頃)に夫が帰宅することになっていました。
夫の仕事が早く終わる日や休みの日には、妻は夫宅には行かず、夫が子どもたちの監護をしていました。
妻の仕事が遅い日には、子どもたちは学校から妻の実家に行き、祖母の作った夕食を食べた後で夫宅に帰りました。
日曜日は、交互に子どもたちと過ごしました。
子どもたちは幼いながらも、裁判所の調査に対して、「家族みんなで暮らしたい。」と述べ、両親の不仲に心を痛めていました。
このような状態の中、妻が、現在の変則的な生活は子どもたちにとって不安定であり相当ではないとして、二人の子どもたちの監護者を自らに定めるよう求めたのが本件になります。
2 裁判所の判断
裁判所は、①夫と妻がほぼ同程度に子どもらを監護していると評価し共同監護のような状態であるといえること、②夫の監護状態に大きな問題があると認められず、現在の状態はそれなりに安定していると評価できること、③監護者をどちらかに指定することは子どもたちが両親双方と触れ合える現状を壊しかねないことを理由に、妻の申立てを却下しました。
別居中の夫婦は、子の監護をすべきものその他監護について必要な事項を協議で定めることができます。また、協議が整わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定めることになります(民法766条1,2項類推適用、家事事件手続法39条、別表第2第3項)。
子の監護者の指定の審判においては、両親のいずれが監護者としてふさわしいかを判断することになりますが、その際に判断基準となるのは、「子どもの利益」です。具体的には、両親の事情としては、従前の監護状況、監護に関する意欲と能力、健康状態、経済的・精神的家庭環境、居住・教育環境、親族等の援助の可能性などを考慮し、子の側の事情としては、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、従前の環境への適応状況、子の意欲などを考慮することになります。
本件では、両親のいずれが監護者としてふさわしいのかを積極的には判断せずに、むしろ現状が共同で監護をしているような状態であると評価した上で、いずれかを監護者に指定することは相当でないと結論付けました。