1 事例概要
夫Xと妻Yには3人の未成年の子がいたが、平成24年に離婚し、子どもたちの親権者はいずれもYと指定されました。
離婚の際、XとYは、公正証書で養育費の合意をしました。合意の内容は、子どもたちが20歳になるまで一人につき月額2万5000円の養育費を支払うというものでした。これはいわゆる標準算定方式により算出される養育費2万円よりも5万5000円高いものでした。
同年、Yは再婚し、同居を始めましたが、再婚相手と子どもたちは養子縁組していません。
平成25年、Xは、Yが再婚したことや自己の収入が減少したことなどを主張して、養育費減額調停を申し立てました。
その後、調停は審判に移行し、未成年者らがYの再婚相手に養育されるに至ったことや当事者双方の経済状況が変化したことなどの事情の変更を肯定した上で、公正証書作成の趣旨を踏まえて以下のように判断しました。
すなわち、審判当時の双方の収入をもとに算定される養育費6万円に公正証書作成の趣旨を踏まえて5万5000円を加えた月額11万5000円が養育費であるとした上で、Yの再婚相手が3人の子らの扶養について一定の責任を負うことは否定できないとして、Xの負担を11万5000円の3分の2とし、結論として、公正証書で合意した養育費の額の変更の必要はないとしました。
その後、Xは再婚し、再婚相手との間に子をもうけました。 そこで、Xは、再度養育費の減額を求める審判を申し立てました。
2 裁判所の判断
まず、裁判所は、前件審判後に養育費の額を変更すべき事情の変更が生じたことを認定し、現在のXYの収入をもとに養育費を算定しなおすこととしました。
そして、XとYの基礎収入をもとに3人の子らに支払うべき養育費を算定した上で、公正証書で合意した月額5万5000円の上乗せ分については、3人の子らとXの再婚相手との間の子に、生活費指数に応じて等しく分配するのが相当としました。
本件では、公正証書で合意された5万5000円の上乗せ分を、3人の子らだけに配分すべきか、再婚相手との間に生まれた子にも配分すべきかが問題となりました。
本決定は、公正証書による養育費の合意の趣旨に、3人の子ら以外に夫が扶養義務を負う子を、3人の子らよりも劣後に扱うことまで求める趣旨ではないと判断しました。
夫が、自分の子に対して負う扶養義務に差異がないのに、一方のみを優先的に費用を充てるとなれば、反射的に他方の生活に充てる費用が少なくなることを踏まえた判断と考えられます。