相談者:「離婚のときに養育費の約束をして、きちんと公正証書まで作ったんですけど、元夫が払わないんです。給料とか、差し押さえして回収できますよね?」
弁護士:「元夫の勤務先とか、預金をしている金融機関の支店名、わかりますか?」
相談者:「えぇっと、元夫は転職したみたいで、今の勤め先わからないんですよね。預金をしている銀行も支店も、今はちょっとわからない・・・。」
弁護士:「ほかに何か資産はありませんか」
相談者:「う~ん、離婚してから連絡とってないので、わからないですね・・。」
弁護士:「元夫の財産が何もわからないと、公正証書があっても差し押さえて強制的に回収するのはむずかしいですね・・・。」
相談された弁護士としては、なかなかつらい回答なのですが、こういったご相談はよくありました。
離婚の際に公正証書や調停調書等で養育費の約束をしていたのに、離婚後、元配偶者が支払わなくなった場合、これまでは、元配偶者の勤務先や預金の存在する金融機関名や支店名等まで把握できていないと、強制執行を行って元配偶者の資産を差し押さえることができませんでした。
このように、裁判等で決めた養育費が支払われず、金銭的に苦しむひとり親家庭が多いことが問題となっていたことも一端となり、2019年5月10日、民事執行法が改正され、「第三者からの情報取得手続き」の制度が新設されました(施行は、原則として、「公布日(同年5月17日)から1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています)。
この新制度によって、強制執行ができる確定判決等を持つ債権者は、一定の要件のもと、裁判所に申し立てをして、以下の情報を取得することができるようになります。
- 金融機関(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等)から預貯金や、上場株式・国債等に関する情報
- 市町村、日本年金機構等から、勤務先に関する情報
- 登記所から、土地・建物に関する情報
※②については、「養育費等の債権」や「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」を有する場合に限られます。
このように、預貯金や勤務先を見つけられ、差し押さえられる可能性が高くなると、支払義務を負っている親としては、逃げずに支払おうと考える契機になりますので、結果として支払いが履行される確率が高まると思われます。
ただ、この制度は、単なる当事者の合意の書面では利用できず、調停調書や公正証書などを取り決めておく必要があります。今からでも遅くありませんので、養育費でお困りの方は、ぜひご相談いただければと思います。(弁護士 小川 弘恵)