1月10日,タレントの加藤紗里さんが,昨年9月に結婚した男性と離婚したことを発表し,ニュースになっています。
結婚相手の男性は,不動産会社を経営する男性だったようですが,加藤さんが離婚の原因を「3か月で1億円使わせて会社の経営が傾いた」等とコメントしており,物議をかもしているそうです。
さて,離婚の相談を受けていても「配偶者の浪費がひどい」という話題は時折あります。仮に一方が離婚したくないと考えた場合,それでも「配偶者の浪費癖」を理由に離婚はできるのでしょうか。
民法では,離婚原因として,「婚姻を継続しがたい重大な理由」を挙げています(770条1項5号)。
この要件は,様々な事実から,婚姻関係が「破綻しているかどうか」「婚姻継続が困難と言えるかどうか」を裁判所が認定するという構造になっています。
よくあらわれる要素としては,長期間の別居や,DV,モラルハラスメント等がありますが,「浪費」もこの「破綻」を認定する一要素に働きます。
一般的にも,浪費によって「婚姻共同生活を維持することが困難になる場合」はこの条項により離婚原因になり得ると解説されています(秋武憲一ほか編著『離婚調停・離婚訴訟【改訂版】』117頁)。
では,どれくらいの浪費であれば,離婚が認められるのでしょうか。
もちろん具体的にはケースバイケースですが,意外とこのような浪費に着目した離婚判例は多くありません。
私見ですが,公表裁判例が少ない理由としては3つほどあると考えられます。
①このようなジャンルの類型は,訴訟に至らず調停や協議で解決に至っている事案が多いと考えられます。
②浪費だけでなく,その他のDVや不定(浮気)等があり,そちらで離婚原因が認定されているという要素もありそうです。
③さらに,ニュースの加藤さんの件とは事案が異なりますが,浪費した側が「離婚したくない」という場合には,離婚協議中や訴訟中の生活態度を改めることで「婚姻関係を改善できる可能性がある」とみられる可能性があるため,なかなか決定打にはならないのかもしれません。
よくよく調べてみると,浪費を中心に認定した裁判例としては,東京地裁平成15年9月17日判決がありました(判例秘書)。
この事案は,会社社長と結婚した妻が,子どもを家政婦に預けたまま家事をほとんどせず,夫から渡されていた月額50万円の食事代,夫の会社からの月額100万円の給料等を10年間近く費消し続け,また,夫の会社の資金で競走馬や絵画,車,ゴルフ会員権等を購入したり,株取引で1億円の損害を生じさせたり…といった事実が認定されています。
裁判所は「原告と被告の婚姻関係は完全に破綻していることが明らかであり,その原因は被告(妻)」「被告(妻)は家事や育児を十分にしたとはいえないばかりか,会社から高額な給料をもらい,また,原告から十分な生活費を受け取りながら,むしろこれらを浪費していたというべき」等と認定し,夫からの離婚請求を認め,さらに,夫から妻に対する慰謝料請求500万円を認めつつ,妻から夫への財産分与申立てを認めませんでした。
やや浮世離れした事案かもしれませんが,さすがにここまでの事案だと,浪費を理由とした離婚は当然認められるようです。
むしろ,「こんな事案でも慰謝料は500万円?」というあたりが,皆様気になる部分かもしれませんね。本件に限らず,離婚に伴う慰謝料請求はなかなか金額が大きくならないことが多いです。
この裁判例のようなひどい事案でなくとも,①浪費以外のその他の事情等を併せて離婚原因の主張ができるかどうか,②仮に離婚原因の主張が難しくても,調停や協議で合意できないか,弁護士が検討しますので,気になる方はご遠慮なくご相談ください。
弁護士 大畑亮祐