以前のブログで、民事執行法が改正になり、支払義務者の財産を差し押さえるにあたって必要な情報を取得する手続き(第三者からの情報開示手続き)が新設されたことをお伝えしました。
この制度の利用により、これまで婚姻費用や養育費の支払いについて合意があるにもかかわらず支払いを行っていない支払義務者の財産への強制執行は、これまでよりは容易になると思われます。ただ、この制度を使っても、強制執行が難しいケースというのは存在します。
支払義務者が自営業者の場合、その収入は法的には給与ではないため、会社員のように、給料を差し押さえるということができません。また、預貯金等については、個人名義のものは差押えの対象になりますが、法人の口座は、支払義務を負う個人の口座とは別人格の口座であることから、これも差し押さえることができません。これらの点は、今回の民事執行法の改正によっても、解決されていない問題点だと思います。
支払義務者が自営業者である場合、婚姻費用や養育費を算定する際の基礎収入は、確定申告書に記載された金額を前提とすることが多いのですが、そもそもこの時点で、配偶者が把握している現実の収入より書類上の収入が非常に低く記載されているケースがあります。そうすると、配偶者側としては、実際にはもっと売上があるということを主張・証明していくことになるのですが、自営業者の配偶者が経理等を任されていたと等というケースでもない限り、これを証明するということは中々難しく、種々の状況を勘案して、ある程度のところで決定せざるをえないのが実務の状況です。
このように、自営業者が離婚する場合には、婚姻費用や養育費を決定する際の算定の基礎となる収入について疑義がある場合に真実をどのように把握するべきなのか、あるいは決定した婚姻費用や養育費の支払いがなされなかった時の強制執行がなかなか難しいという問題は、まだまだ解消されていない状況にあります。
私どもがご依頼に対応する際にも、自営業者の方の離婚の場合は、このような状況を踏まえながら、どうするのが一番良いのかを様々な選択肢を検討しながら、当該事案に合わせて最適と考えられるものをご提案し、交渉を進めています。立場によって、ご提案の内容は当然変わってきますが、いずれにしても、早い段階でご相談いただいたほうが、取れる選択肢が多いのは事実です。このブログをお読みいただいた方で、自分のケースは?と思われたかたは、ぜひ、早めにご相談にいらしてくださいね。
(弁護士 小川弘恵)