Sさん夫妻は4人の子どもに恵まれ長年連れ添ってきましたが、年々お互いの価値観が合わないと感じる部分が増えてきました。妻への愛情は冷めてしまったものの子どもは可愛く、どうしたものかと考えていたところ、妻の方から「子ども全員を連れて離婚したい」と切り出してきました。夫婦としては冷めきっていたので離婚すること自体には異論はないSさんでしたが、妻に子どもの親権が渡ることに対してはどうにも納得がいきませんでした。
Sさんにとっては子どもと過ごす時間がかけがえのないもので、4人の子どもは生き甲斐と言っても過言ではありません。そんな子どもたちを連れて行かれると生きる活力を失ってしまうとSさんは焦って弁護士に相談しました。
子どもの親権争いは母親が有利とよく言われます。実際にそのとおりで、日本では約80%の割合で母親が親権を得ています。父親が子どもの親権を獲得するのは簡単なことではありませんが、Sさんは常日頃から子どもの面倒をよく見ており、自営業であったため子どもを育てる環境や接する時間は整っていました。弁護士はSさんに子どもを任せても大丈夫だと考え、離婚調停を申し立てて親権者を決めることにしました。
調停ではどちらが親権を獲得するかがメインの争点となりました。親権獲得を巡る調停では家庭裁判所の調査官は子どもがどう思っているか、監護状況はどうなっているか、どちらが親権者にふさわしいかについて調査を行います。小学生の長男次男は父親であるSさんと暮らすことを強く希望していましたが、三男四男はまだ幼く、本人の意思を伝えられる年齢ではありませんでした。さらに協議を重ねる中で、弁護士はSさんに普段の交流を欠かさないこと、子ども達4人はAさんとの同居を継続したまま、母親との間を子ども達が自由に行き来できるようにすること、これまでの生活状況を継続することをアドバイスしました。その結果、調査官からも「お父さんの方で全員一緒に暮らした方がいいのではないか」という意見がなされ、最終的には妻も納得しました。
Sさんは弁護士に相談する前から、一般的に父親が子どもの親権を獲得しにくいことを知っていました。また、Sさんは子煩悩な父親ではありましたが、妻も決して悪い母親というわけではありませんでした。分が悪いと思いつつも弁護士に相談したことで、これまでの子どもたちへの接し方や環境づくりが間違っていなかったことが分かり、親権獲得への意欲が高まったと言います。そして調停を経て親権を獲得できたSさんはこれまで以上に子どもたちにとって良い父親でありたいと決意を固めておられました。
よくあるケースとして、夫婦間が対立するとどちらかが子供を囲い込んで相手との接触を拒むことがあります。相手に虐待や育児放棄などのマイナス要素がない場合、それは逆効果になりかねません。そのため、弁護士はSさんが親権を獲得した場合、妻と子どもたちの交流はこれまでどおり制限せず、本人たちの意思に任せることを提案しました。いつでも自由に会えるならと、その条件に妻も納得し、Sさんが親権を獲得することに承諾してくれました。
子どもの親権をどちらが獲得するかというのは、離婚では大きな争点です。親ならば誰でも自分が親権を取りたいと願うのは自然なことですが、子どもは親の所有物ではありません。裁判所は福祉の観点から、子どもがこれから生活していくにあたって父親か母親か、どちらの元で暮らしていくのが相応しいかを客観的に判断します。ですので、親権を争う前に今一度子供のためにはどうするべきか、夫婦も考える必要があります。そのうえで、自分が親権を獲得したいという場合には、選択できる手段も多くなりますので、なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。