結婚する前から精神的に不安定な部分があったKさんの妻でしたが、子どもが生まれて育児を続ける中で、その傾向はより強くなってきました。献身的に妻をフォローしていたKさんでしたが、いよいよ「こんな状態の妻には育児はむずかしい」ということになり、Kさんは2歳になる子どもを連れて一時的に実家に戻ることにしました。しばらく様子をうかがっていましたが、妻の状態は安定することがなく、Kさんは子どもの将来のことを考えると実家の安定した環境で子育てした方が良いと思い、離婚することを決意しました。
いざ離婚するとなると気がかりなのは2歳になる子どもです。精神的に不安定な妻には子育てがむずかしいと感じて離婚を決めたのに、夫であるKさんが親権を取れないのでは元も子もありません。「子どもが小さいと男親が親権を取るのはむずかしい」と聞いたこともあり、不安に思ったKさんは、どれくらい自分が親権者になれる可能性があるのか、弁護士に相談することにしました。弁護士は話を聞き、Kさんなら親権者になれるだろうという見通しのもと、依頼を受理。まずは先方に受任通知とKさんの希望を書いた手紙を送りました。
手紙を受け取った妻も別の弁護士に依頼し、協議は代理人同士で行うことになりました。妻側の主張も、最初は「離婚すること自体には異存はないけれど、親権については母親が持つべきではないか」ということで、親権について重点的に話し合うことになりました。弁護士は、妻の体調を考えるとKさんが親権者になるのが望ましいということ、面会交流については妻の希望にできるだけ添うかたちで実現すること、払うべき婚姻費用については適切に対応するということを提案。面会交流については、離婚協議中から実際に何度か設定し実行することで、妻も徐々にKさんに親権を譲っても良いという考えに変わっていきました。最終的には離婚後も変わらず面会交流を続けることを約束し、Kさんが親権者となることに合意。相談から約半年で離婚が成立しました。
相談前にKさんが懸念していたとおり、親権は母親側が有利で、子どもが幼い場合はなおさらです。また、精神的に不安定といっても重度な精神疾患ではないため、法律的な離婚原因にはならず、離婚原因を争うような裁判手続きになっていたら、もしかするとKさんが不利になっていた可能性もあります。
今回はKさんがお子さんを連れて実家に戻っていたこと、実家で問題なく養育できていたことを踏まえて、Kさんが親権を獲得できる可能性があるという見通しがあったため、弁護士はあえて調停ではなく協議で交渉を始めました。弁護士が丁寧に説明を重ねた結果、妻側からの理解を得ることができ、男親でも円満に親権を獲得することができました。
男性側が親権を獲得するのは、一般的にむずかしいというのは間違いありません。しかし、調停や訴訟で親権を争うことになった場合に何よりも重視されるのは、「どちらの親に育てられるのが子どもにとって良い環境か」ということです。また、離婚したいとなった時点で子どもがどこにいるのかというのも大切です。住まいが変わる、幼稚園や学校が変わるなど、環境が変わること自体がお子さんにとっては大きなストレスになるため、離婚協議時点で問題なく養育できているのであればそのままで良いのではないのかということにもなりがちです。確かに男性側が親権を獲得するのは稀ですが、今回のように親権者になれるケースもないわけではありません。親権者になりたい場合は、どの程度の見通しがあるか、弁護士に相談し、今後の交渉の方法を練るのが解決への近道です。