今回のケースは、離婚後に発生した子どもの養育費に関する問題です。Aさんは4年前に夫と協議離婚をし、2人の子どもを引き取って養育していました。協議離婚の際、「夫は妻に対し、養育費として月10万円を支払う」といった約束のほか、「進学に当たって特別な費用が必要な場合、お互いが話し合って、夫が必要な費用を支払う」といった内容の離婚協議書を、公正証書にしていました。ところが、子どもの大学進学に必要な費用について、元夫は支払いを拒否。元夫はAさんとの間で交わした約束を守ろうとしませんでした。
離婚から4年が経過し、子どもが大学に進学するにことになりました。そこでAさんは元夫に連絡をして、離婚協議書にある約束の通り「大学の入学金と学費」の支払いをお願いしました。ところが、Aさんの申し出は断られてしまったのです。元夫の言い分は「毎月の養育費には、通常の教育に必要な費用が含まれている。大学の費用についても、毎月の養育費から充てるべきだ」というものでした。Aさんは約束を守ってもらうよう、元夫と交渉を続けました。しかし、元夫との交渉は平行線をたどったため、当事務所に相談にお越しになりました。
当事務所の弁護士は、Aさんからのご相談を受けるとともに、離婚協議書の内容を確認。そのうえで、家庭裁判所に対して養育費請求の調停を申立てました。調停内で話し合いを行うことにより、元夫はAさんと交わした約束の通り「子どもの大学の入学金」に加え、「大学卒業までの4年間の学費相当分」を支払うことに合意し、無事に調停が成立しました。その結果、Aさんは安心して子どもを大学に通わせることができるようになりました。
このケースでは、協議離婚の際に作成した公正証書に「子どもの大学進学時の費用負担」についての明確な記載が設けられていたことが、問題解決への大きなポイントになりました。調停の場面においては、公正証書の記載内容にもとづいて、Aさんに有利に話し合いを進めることができました。
調停の申立てを行う以前の、任意の交渉の段階では、元夫は離婚協議書の文言にこだわり、頑なな態度を取っていました。ところが、調停に場を移すことによって、ようやく元夫の本音が判明しました。元夫は、離婚からしばらく子どもと会えておらず、そのために養育費を払う意欲を失っていたのでした。その事実を知ったAさんは、子どもと話し合い、可能な範囲で子どもと元夫との交流を進めることを、元夫に伝えました。その結果、元夫は大学の費用を負担することを了承し、調停が成立することになりました。
いったん無事に離婚が成立しても、養育費の支払いなどで後々にトラブルが再発することがあります。その場合も、家庭裁判所の調停などの手段によって、解決への道を探ることができますので、弁護士に一度ご相談されることをおすすめします。
また、今回のケースが無事に解決に至ったのは、離婚の際に、合意の内容を公正証書にしておいたことにより、調停を有利に進められたためです。公正証書作成の一番のメリットは、金銭給付の支払いが滞った場合に、強制執行(差押さえ)が可能になるということです。このケースのように、離婚時に支払い金額が明確に決まっていない場合でも、公正証書を作成しておくことで、話し合いを有利に進めることができるでしょう。
これから協議離婚をされる方は、後々のトラブルを未然に防ぐためにも、離婚協議の条項をしっかり詰めておき、公正証書にされておくことをおすすめします。