10年前から続いている夫の不貞には気づいていたものの、子どもが独り立ちするまでは我慢しようと思っていたNさん。ところが、子どもの大学卒業まであと数年というところで、夫が給料の半分しか家に入れてくれなくなりました。その金額では住宅ローンの支払いですべて消えてしまい、自分と子どもの生活費はNさんの収入から捻出することに。この10年間、同じ家に住んでいるといっても夫とは会話はなく、夫婦の関係は完全に冷え切っています。ほぼ家庭内別居の状態であることも踏まえ、もう我慢する必要はないとNさんは離婚する決意を固めました。
離婚を決意したものの、Nさんにとって気がかりなのは大学生の子どものことでした。現在住んでいる家は大学との利便性がよく、離婚協議中も離婚した後も子どもが卒業するまではこのまま住み続けたいというのがNさんの一番の望みです。しかし、一般的に「離婚するのに一緒に住んでいる」という状況はNさんも聞いたことがなく、話したところで夫に理解が得られるか不安に思ったNさんは「みお」の弁護士に相談することにしました。相談を受けた弁護士は、Nさんの「同居のまま離婚したい」という強い意思を尊重して、第三者を含めてより冷静に話し合える環境が必要と、家庭裁判所の離婚調停手続きを利用することを提案しました。
離婚するにあたって、Nさんからの希望は「離婚後も子どもの卒業までは同居を続けること」を第一に、子どもの将来の奨学金の返済を夫が支払うこととNさんが立て替えている子どものための費用の精算、夫の女性問題が原因なので本来なら慰謝料も支払ってほしいというものでした。これらの希望が通るなら自宅を含む財産分与に関してはあきらめても良いという譲歩の姿勢で話し合いを進め、夫も合意。最終的には解決金として諸々を含めて夫がNさんに250万円を分割で支払うこととなり、子どもの卒業まではNさんと子どもは現在の家に住み続けることが認められました。同居したまま離婚調停をして、離婚後も同居を続けるという少々特殊な事例でしたが、相談から10か月後に解決に至りました。
Nさんのように長い間家庭内別居が続いた状態で、当事者同士の協議で離婚をしようとなると強い意思が必要です。「今でも家庭内別居状態なのだから、離婚しているようなものでは?」と離婚への意思が揺らいだり、財産分与や子どものことなど具体的な段階になるとどちらかが話し合いを避けたりするなどして、ずるずると年月だけが経ってしまうという例は少なくありません。今回は家庭裁判所の調停を利用し、自宅外で第三者を交えた話し合いの場を設けることで、お互いに冷静な気持ちで離婚についての話し合いを進めることができました。また、Nさんも弁護士と相談しながら離婚手続きを進めることで、離婚するうえで自分にとって何が一番大切かを客観的に考えることができたのが大きかったと言います。
今回は「現在住んでいる家に住み続けたい」というNさんの強い希望により、同居したまま離婚調停をするという特殊なケースになりました。しかし、一般論としては、弁護士に依頼して離婚の交渉をするのであれば、やはり別居してから交渉するのがベターです。せっかく夫婦では離婚協議が進まないからと第三者を間に入れたのに、自宅で顔を合わせてしまうと何が起きるかわかりません。安全かつスムーズに進めるためにも、お互いに一度離れて話し合うことをおすすめします。もちろん、今回のように条件が整えば同居しながらの離婚協議というのもできないわけではありません。ご自身がどうすれば良いか、お悩みなら弁護士に相談されるのもひとつの解決策です。