専業主婦のTさんは、以前から夫のモラハラに悩まされていました。
そんななか、高校生になったあたりから長女が部屋に引きこもるようになってしまいました。長女の状況に悩むTさんに、夫は力になってくれるどころか「お前の育て方が悪い」、「お前のせいだ」と一方的にTさんを責める始末。引きこもりの長女からも日々罵声を浴びせられ精神的にもつらい状況が続き、夫との関係も悪化する一方で、追い詰められたTさんは次第に離婚を考えるようになりました。
夫と長女からの暴言に精神的に疲れてしまったTさんは離婚を考えつつも、長い間専業主婦として過ごしてきたため、離婚後の生活に自信が持てずなかなか一歩を踏み出すことができません。しかし、今のままでは自分も下の子どもも駄目になってしまうと、第三者のアドバイスを求めて弁護士に相談することを決めました。
初めての相談のときには下の子はまだ小学生でした。Tさん自身も今すぐに離婚したいという考えではなかったことから、弁護士は「離婚しても生活していけるように、パートなどの仕事を始めて、経済的に自立できるようになる必要がある」とアドバイス。そして、夫のモラハラに対しては、メモに書き留めたり日記をつけたりして、証拠として残すよう伝えました。
その後、Tさんは弁護士のアドバイスどおり少しずつ仕事を始め、夫のモラハラの証拠も集め始めました。そして、初回相談時から3年が経ち、16歳になった下の子どもからも「お母さんは充分頑張ったよ」と言われたこともあって、ついに離婚を決意。とはいえ、夫に自分の意思をはっきりと伝えられる自信はなかったので、弁護士に離婚協議をまかせることにしました。
弁護士が間に入って話し合ってみると、夫も以前から離婚を考えていたとのことで、離婚についてはスムーズに話が進みました。心配していた生活費の問題も、財産分与は夫の退職金相当額を分割払いで受け取ることと年金分割をすることで合意。そのほかの財産については、妻が譲歩したことで、教育費についても、長女の学費は夫が全額支払い、下の子の養育費及び教育費についてもTさんの収入に応じて二人で負担するということで合意することができました。
弁護士に相談していなかったら、今でも家の中でひとり悶々と悩んでいたかもしれないとTさんは言います。夫婦間のトラブルは友人や身内にも話しづらく、専業主婦という立場から「我慢しなくてはならない」という気持ちを強くお持ちでした。
最初の弁護士相談の際に、自分の置かれている状況を客観的に見つめ直し、状況を改善するためには自分が何をすべきかを具体的に整理できたことが大きかったそうです。「離婚を決意したら、一緒に頑張りましょう」という弁護士の言葉を励みに、3年の月日をかけてTさんは離婚に向けての準備を整えることができました。
Tさんが詳細に書き残した夫からの精神的虐待、モラハラの記録は、弁護士の目から見ても非常に悪質で、慰謝料の請求も可能だろうと判断できるものでした。しかし、Tさん自身があくまでも話し合い(協議)で早期解決することを最優先にしたことから、慰謝料は求めずに交渉することになりました。
長年のモラハラに耐えてきたTさんは、夫の前では萎縮してうまく自身の気持ちが主張できなくなっていたため、Tさんに代わって弁護士が間に入り、協議を進めることで、余計な感情の対立がなく、夫との離婚協議についても冷静に判断することができました。最優先にしたい事項を明確にして、慰謝料については求めないという方針で進めたことで、財産分与や養育費・教育費などはTさんの希望どおりの条件で合意することができ、その内容で公正証書も作成し、円満に離婚が成立しました。
最初のご相談ではなく、3年後に再びご来所いただいた際に依頼を受け、解決したというケースです。このように、必ずしもご相談に来られたときが離婚のベストなタイミングとは限りません。今は離婚しないほうがいい、じゃあいつ離婚したらいいのか。離婚のベストなタイミングはご家庭の抱える事情や状況によって異なりますので、じっくりお話をうかがってから判断し、お伝えさせていただいています。
今回のケースは、初回相談時から依頼者の方が弁護士のアドバイスを基に、仕事や子どものことも含めて、離婚に向けて一生懸命準備を進めたからこそ、3年後、経済的にも精神的にも少し余裕を持つことができ、それが解決につながった事案です。
離婚は、離婚したいという気持ちだけで解決できないことがたくさんあります。離婚するためにどんなことを解決していかなければならないのか、一人で考えるのはとても大変です。離婚しようと決意されている方も、離婚しようかどうか迷っている方も、一人で悩みを抱えるのではなく、まずは、ご相談いただければと思います。