半年の交際を経て結婚したSさん。付き合っていた頃から、妻に対して感情の浮き沈みが激しい人だなとは思っていましたが、結婚してからはさらにエスカレート。機嫌が悪いときには家事も一切せず、「お義母さんの心ない言動に傷ついた」や「子供ができないのはあなたのせいだ」などといった理由でSさんを責めることが増えていきました。Sさんが困って言い淀むと、泣きながら「あなたが悪い」と迫ってくるときもあれば「どうせ私が悪いんでしょう」と自殺をほのめかすように包丁を出してくることもあり、Sさんはその都度謝ったり宥めたりしてその場を収めていました。しかし、妻の言動は年々ひどくなる一方で、耐えきれなくなったSさんは家に帰るのが怖いと感じるようになってしまいました。妻からの電話にも出られず、家にも帰れず、仕事が終わるとインターネットカフェに宿泊するようになりました。
他人に相談しようにも、男性である自分が妻からDVを受けているとは言い出せない。相談をしても、女性にDVを受けていることを信じてもらえなかったり、気弱な自分が悪いと言われるかもしれない。相談したことで妻の耳に入り、家に帰ることになったら再び妻から糾弾されるかもしれない。Sさんはそんな不安を抱えながら、昼は仕事、夜はネットカフェでしばらく過ごしていましたが、この生活をいつまでも続けるのは精神的にも肉体的にも無理があるということもわかっていました。妻と離れて第二の人生をやり直したいと一念発起し、弁護士に相談することにしました。
相談を受けた弁護士はすぐに、今後の交渉はすべて弁護士を通す旨を妻に通知し、Sさんにはこれまでどおり、家には戻らず、妻からの連絡も一切無視してくださいと伝えました。Sさんの安全を確保するため接見禁止を取ることも検討しましたが、弁護士からの通知と裁判所で話し合いましょうという提案に妻が合意したため、接見禁止には至りませんでした。調停が始まってからは、妻からSさんに宛てた一方的になじるメールの文面やケガを負った際の写真を証拠として提出するなどしてDVがあったことを根気強く立証していきましたが、妻は「DVの事実はない、むしろ夫が悪い」と全面否定。DVの有無について深く追及することもできましたが、Sさんの要望は「とにかく早く妻と関係を断ち切りたい」ということだったので、離婚に重点をおいて話し合いを進めていきました。「離婚を成立させるためならここまでの財産は渡しても良い」と打ち合わせていた条件内で妻との離婚が成立。無事に新しい人生をリスタートさせることができました。
長い間、妻からのDVに一人で悩み続けていたSさんにとって、弁護士に相談することが大きな一歩でした。解決策を示され、妻に会わずに離婚ができるとわかったときには、深く沈んだ気持ちに光が差したようだったと言います。逃げるように家を出てから離婚が成立するまで、全面的に弁護士が矢面に立つことでSさんの安全と安心を確保することができました。相談に来られたときには疲弊しきっていたSさんでしたが、調停中は妻に会うことなく日常生活を送ることができ、離婚が成立する頃には元来の明るさを取り戻すまでに。心機一転、新たな人生を安心して送れると喜んでいました。
DVというと夫から妻へというイメージが一般的ですが、当然、妻から夫へのDVもあります。他人には相談しづらいかもしれませんが、限界だと感じたときには勇気を出して相談してください。また、DVの証拠を確保しておくことも大切です。事案によっては、妻からの暴力を受けているにもかかわらず、病院の診察を受けていなかったり,診察時に言い出せず「階段から落ちた」と説明してしまったため診断書を裁判所に提出する際に苦慮してしまう事案もあります。心理的に大変だとは思いますが、後々の自分を助けることを意識していただければと思います。DV相談センターや警察の生活安全課への相談が記録となり、DVと認められたケースもあります。弁護士が代理人となることで、会わずに離婚を進めることもできますので、お悩みの場合は是非ご相談ください。