結婚してからしばらくして夫の酒乱が発覚しました。
酔っていないときの夫はとても優しくていい人なのですが、アルコールが入ると「死ね」「馬鹿」などといった暴言を投げつけ、殴る蹴るの暴力をふるいます。体中にアザができて恐怖を感じた妻のMさんは、夫がお酒を飲むたびに車で一晩明かしたり、実家に避難したりするなどの生活を二年間強いられました。
ある日、酔った夫が暴れだしたのでいつものように実家に避難した翌日、アルコールが抜けた夫から「悪かった、帰ってきてくれ」と頼まれたMさんですが、この二年間の繰り返しに嫌気がさし「もう戻りたくない」と心から思いました。
夫の元には戻りたくないと思ったMさんでしたが、夫への恐怖心が拭えず離婚を切り出すことができません。また、Mさんが避難するたびに「悪かった、帰ってきてほしい」と、時には涙を流して懇願する夫の態度を考えるとすんなり離婚に応じてくれるとも思えませんでした。ひとりで夫と話し合うのは難しいと感じて弁護士に相談することにしました。
弁護士から「自分が酒乱であることを認めてカウンセリングを受けるなどして改善が見られるならやり直すことはできるかもしれないけれど、そうでなければ、今後も同じことの繰り返しになる可能性は高い」とアドバイスを受けました。一人になってから、この言葉を落ち着いて考えたとき、夫自身が改善するとは到底思えず、今後、同じことを繰り返していく人生はつらいし嫌だとはっきり認識し、Mさんは離婚する意思を固めました。
Mさん自身が離婚を切り出すと、夫はお酒を飲んで暴れだす危険性があったため、直接交渉は行わず、弁護士が間に入って協議でスタートすることにしました。
暴力による慰謝料の問題もありましたが、結婚期間が二年と短く財産分与が少ないこととMさんのお金のことよりも早く離婚することを優先したいという希望から、まず弁護士は、夫との協議でスタートすることにしました。しかし、夫は自分がMさんに行ったこと言動の一部は認めたものの、暴言は一切否定し「やり直したい」の一点張りでしたので協議の進展は見込めないと判断し、調停を申し立てることになりました。
調停の際には婚姻費用と離婚費用を合わせて申し立てました。調停でも同様に、夫は一部の暴力や暴言は否定し「二度と酒は飲まない」と言いましたが、Mさんの意思は変わりませんでした。結果として、Mさんが弁護士からのアドバイスにより、過去の暴力によるけがの写真を残していたことや、警察に相談し110番登録をしていたことなども決めてとなり、最終的には夫もあきらめ、無事離婚が成立しました。
暴力が原因による離婚協議では、妻と夫が対等な立場で話し合うことは困難です。
特に今回のような酒乱の場合、素面のときには自分のしたことを覚えていなかったり、あるいはその後の話し合いの際、配偶者が泣いて謝ることからやむなく許してしまうことも多く、当事者同士ではなかなか話が前に進まないことが往々にしてあります。また、いつ夫が酒を飲み、酔って暴れだすかわからないという恐れもあり、当事者で話すことは避けた方がベターです。今回のケースでも、弁護士が間に入ることで、Mさんは夫と直接会うことなく話し合いが進められたので、安心して日常生活を送ることができました。
最初の相談時に、弁護士から「暴力を振るわれた証拠は必ず残しておくこと」とアドバイスを受け、Mさんは警察への相談実績や110番登録、暴力を振るわれて負ったケガの写真や医師の診断書などを証拠として残していました。調停では、夫は一部の暴力や暴言を否定しましたが、Mさんの集めていた証拠から認めざるを得ず、申し立てから半年という早さで離婚を成立させることができました。
お酒による暴力・暴言が原因による離婚のご相談は少なくありません。今回のケースではMさん自身が何かおかしいと気づき、離婚の意思を固めるまでの時間がそれほど長くなかったため、比較的スムーズに離婚することができましたが、夫の暴力に慣れてしまい、暴力・暴言を受けることが日常になっている方も多くいらっしゃいます。生活費はもらえない、暴力を受けるといった、第三者からみると「どうしてそんな状態でずっと我慢しているのか」という状況でも、それが当たり前になってしまうのがDV被害者です。
なかなか難しいことではありますが、ご友人やご家族から心配されたり指摘されたりしたときには、立ち止まって自分の置かれている状況がどうなのか、ぜひ一度弁護士に相談してください。怖くてひとりではどうしようもないという状況に、私たち弁護士なら力になれるかもしれません。